レジ袋やペットボトルなどのプラスチック製品が海に到達して発生する海洋汚染が深刻化しているのをご存じでしょうか。ある集計に寄れば、世界中の海洋で毎年最大1200万トンを超えるプラスチックごみが海洋に流入していると言います。さらにその内の数百万トンが海岸線や埋立地、内陸の水路に打ち上げられて集積していると見られています。そして昨今では、プラスチックごみが漂う間に壊れて微小なサイズになった「マイクロプラスチック」の汚染が深刻になっており、問題指摘されることが増えています。

 

2018年6月にカナダで開催された先進7カ国首脳会議(G7)では、カナダと欧州連合が海洋プラスチックごみの削減に向けて、数値目標を盛り込んだ文書を採択しましたが、アメリカと日本が署名を拒否して批判を浴びたことは記憶に新しいところです。さらに今年の6月に大阪で開催された20カ国地域首脳会議(G20大阪サミット)では、2050年までに海洋に流出するプラスチックごみをゼロにするという「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」が発表されました。その実現のためのアクションである「マリーン・イニシアチブ」も発足したものの、その実効性への疑問が多方面から投げかけられているのは残念なところです。

 

多くの場合、5mm以下のプラスチックの粒子がマイクロプラスチックと呼ばれますが、サイズが小さいために有害な化学物質を吸着して生物の体内に蓄積しているとの研究報告が相次いでいます。しかし、その汚染範囲はどうも海洋だけではないようなのです。今年の4月、イギリスの科学誌ネイチャー・ジオサイエンスに掲載された論文によれば、2017年から2018年の5カ月にわたって実施された大気中のマイクロプラスチックの調査で、スペインとフランスにまたがるピレネー山脈で大気中にプラスチックの微小粒子が観測されたというのです。

 

イギリスのストラスクライド大学のスティーブ・アレン氏によれば、ピレネー山脈の高高度地域では、1平方メートル当たり平均で365個のマイクロプラスチックが毎日地上に降下したのを観測したとされています。論文を共同で執筆したフランスの機能生態学・環境研究所のデオニー・アラン氏は、マイクロプラスチックが大気によって運ばれ、大都市から遠く離れた辺境の高高度山岳地帯でも堆積していることを発見したとしています。

 

今回の調査が行われた標高1500m以上にあるベルナドゥーズ測候所は、最も近くに位置するフランス南部の街トゥールーズから100km以上の距離があり、大気の流れなどから推測すると風や雨、雪がプラスチックの微小粒子を運んできたものとみられるそうです。分析されたマイクロプラスチックの降下量や大気中の濃度はパリや中国南部の工業都市で検出されるのと同程度の水準であるとされ、研究チームも衝撃を受けたと報道されました。


マイクロプラスチック
 

このようにマイクロプラスチックは世界各地の海や空で検出されている他、各国の水道水でも検出されているとの報告があります。今年に入って発表された研究結果では、水深1万メートル以上の深海に生息している生物の消化管内でも微小プラスチックが発見されたとの報告がありました。プラスチックの微粒子が野生生物や人体へ及ぼす潜在的な影響などを評価するための科学的研究はまだ始まったばかりと言われますが、その汚染域が海洋だけにとどまらず、上空の大気や深海にも及び、地球上のあらゆるところに至っているというのが事実の様です。