新型コロナウイルスの感染防止に取り組まなければならない期間が長引いていますが、コンビニエンスストアやスーパーマーケットでの買い物で会計をする時にレジの列に並んで、ふと足元を見ると床に描かれた矢印や足跡マークを目にすることがありませんか。お客さん同士の適切なソーシャルディスタンスを示していますが、それらを見た私たちは、お店の人に誘導されなくても自然とマークに沿って整然と並ぶことができますよね。強制的にではなく自発性を促す仕組みがあると、すんなりと気持ちよくできるものです。

実はこれは「ナッジ理論」(Nudge Theory)をうまく活用した仕組みなのです。

ナッジ理論(Nudge Theory)の“Nudge”とは英語で「(誰かを)こづく」という意味です。つまり人々にそれとなく望ましい行動を取るように(こづいて)促すことを指しています。母ゾウが子ゾウに難しい道を行かせる時に、鼻で優しく押して進ませる様子に例えられることが多い仕組みです。2017年にノーベル経済学賞を受賞したシカゴ大学のリチャード・セイラー教授が提唱した考え方なのです。

nudge

ナッジ理論は相手に気づかれないうちに、人間の心理に働きかけて、それとなく誘導するような仕掛けですが、経済学の教授が提唱しただけあって行動経済学の知見をうまく利用しています。相手に強制しないでも良い方向へ誘導することができる実用性が高い理論として、民間企業や中央省庁・自治体等でも取り入れられています。

例えばアメリカのIT企業の中には、福利厚生のために24時間利用できる社員食堂がありましたが、社員の肥満が目立ち始めたことから、食堂の一番目立つ位置にサラダを配置しました。食堂はバイキング方式だったので、社員たちが最初にサラダを皿に盛り付けるようになり野菜の摂取量が増えて、肉や清涼飲料水やスイーツの量が減ったそうです。結果として社員の肥満は改善されて、体重の減量に効果があったと言います。直接的にダイエットを強いるわけではなく、それとなく健康的な食事に誘導することで、目的を達成させたナッジ理論の社内活用の事例です。

ナッジ理論は社会的にも活用されています。2013年開催のサッカー・ワールドカップ日本代表戦による影響でJR渋谷駅前にサッカーファンが殺到して、駅前のスクランブル交差点が大混雑した時には、警視庁の隊員(DJポリス)が日本代表サポーターに向けて「12番目の選手」としてマナーの良い横断をと誘導したことがありましたが、これは民衆の良心にさりげなく訴えて、人々の自主性を導き出したナッジ理論の効能だったかも知れません。

皆さんの仕事や生活でもこのようなナッジ理論を利用した仕組みを仕掛けてみてもいいかも知れませんね。SDGsが重要になる社会になって、人々に「サステナビリティ・マインド」を促さなければならない時も増えてくることでしょう。そんな時はぜひ、この発想を持ってみて下さい。ポイントは強制的にならないことですね。